top of page

イノシシくんへ

2004年製作

愛知万博あいち環境絵本 最優秀賞受賞作品

 

ぼくのすんでいる団地は

名古屋にあります。

 

ぼくのすんでいる団地は

お母さんが子どものころは

山だったんだって。

 

きれいな花がいっぱいさいていて

いろんな動物が

はしりまわっていたんだって。

 

ぼくが、イノシシくんに あったのは、

 

8月のおわり、あつい ごご だった。

 

ぼくの、

すんでいる だんちには、

ちいさな山がある。

 

ここだけのはなしだけど、

 

ぼくの ひみつきちは、

この山の中に

あるんだ。

 

その ひみつきちに、

イノシシくんがいた!

 

しかも、ぼくが かくしておいた

おかしを たべ、

ジュースを のんでいた!

 

 

「このまえ、かってに、

 

ぼくの ゲームで あそんだのは、

 

おまえだなっ!」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい。

もう、しーへんで、

ゆるしたってちょ~。」

 

ぼくには、イノシシの友だちが

いなかったので、

さっそく、

 

イノシシくんを、

友だちにしてやることにした。

 

「ねえ、イノシシくんは

いつから、ここに すんでたの?」

すると、イノシシくんは、

イッシッシッシッと、わらった。

 

「このだんちができる、ずっとまえから、

ここに、おるがね。

だんちが できるまえは、

ここは、ぼくたちの森だったんだがね。」

 

 

「それが、ある日とつぜん、

でっかい車がきて、

森をこわしてまって、

 

そんとき、とうちゃんたちと、

はぐれてまったんだがね。」

 

「とうちゃんは、いっつも、

 

  『まいごになったら、うごいてかん。

    この木の下で、まっとるんだぞ。

    ぜったい、むかえにくるでな。』

 

って、言っとった。

 

だで、ここで、

とうちゃんを、まっとるんだがね。」

 

 

 

 

 

 

 

そう言って、イノシシくんは、

木を、ぎゅっと だきしめた。

 

すごいな。

 

この木は、

ぼくがうまれる ずっとまえから、

ここに立っていて、

いろんなことを、

見たり きいたりしてきたんだ。

 

いつも見なれたこの木が、

ものすごく、かっこいい木にみえた。

 

ものすごい たからものを、

見つけたきぶんだった。

 

 

 

 

 

ぼくも、イノシシくんといっしょに、

この木を、ぎゅっと だきしめてみた。

 

 

きもちいい。

 

だけど、うんどうかいが、ちかづくと、

ぼくの こころは くらくなった。

 

ここだけのはなしだけど、

ぼくは・・・はしるのが、おそい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると、イノシシくんは、また、

イッシッシッシッと、わらった。

 

「なんだぁ、おまえ、はしるの、おそいんか。

しんぱいないがや。

 

ぼくと いっしょに、はしりゃ、

せかいいち、はやくなれるで。」

 

イノシシくんのことばを

しんじていたわけではないけど、

それから、まいにち、はやおきして、

ぼくたちは、

だんちの まわりを はしった。

 

イノシシくんが はしると、

森のにおいがした。

 

 

 

 

 

 

「ぼくと、いっしょに はしりゃ、

森のかぜに なれるんだがね。」

 

イノシシくんは、そう言って

イッシッシッシッと わらった。

そして、うんどうかい。

どきどきした。

 

でも、はしりはじめると

森のにおいが、ぼくを つつんだ。

きっと、イノシシくんが、

どこかで、いっしょに はしってくれてるんだ。

 

 

 

うまれてはじめての

いっとうしょう だった!

 

 

 

 

 

   なのに、イノシシくんは、

          きえてしまった。

 

 

つぎの日も、つぎの日も、

イノシシくんは あらわれなかった

「きっと、イノシシくん、

おとうさんが、

むかえにきてくれたんだよね。」

 

ぼくは、木に はなしかけたけど、

木は、はっぱを

ざわざわと ゆらすだけだった。

 

 

 

 

 

 

そして、ゆきが ふりはじめるころ、

この木は、たおされ、

ちいさな山も なくなった。

 

「ちゅうしゃじょうに なるんだって。」

と、おかあさんが、言った。

 

そんなある日、

がっこうからかえると、

げんかんの まえに

木の実が おいてあった。

 

 

   森のにおい・・・

   イノシシくんの においがする。

 

 

 

 

 

やっぱり、

イノシシくんは、どこかの森で

おとうさんたちと たのしく 

くらしているんだ

ぼくは、うれしくて

イノシシくんに てがみをかいた。

 

 

でも、じゅうしょが、わからないから

かぜに

はこんでもらうことにした。

 

おしまい

イノシシくんへ

 

おげんきですか?ぼくはげんきです。

木の実をありがとう。

ぼくは、はるになったら

この木の実を、うえます。

めが でたら、だいじに そだてて

木にします。

それから いつか、このまちに

ぼくの森を つくります。

そしたら

いっしょに ひみつきちを つくって

あそびたいです。

ぜったい あそびにきてください。

 

まってます!

 

 

 

 

 

 

「うんうん、ぜったい あそびにくでな。

 まっとってちょ!」

 

    ↑

手紙を読んだイノシシくんのお返事

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

この絵本は2004年あいち万博期間中、瀬戸会場で展示されていた絵本です。

見たことあるよ~なんて方がいらっしゃったら、嬉しいです♪

 

会場では複製本が展示されていたのですが

戻ってきたときは ボロボロで

すごくたくさんの人たちに手に取ってもらえたんだなあと思い

すごくすごく嬉しかったです。

イノシシくんもたいそう喜んでおりますm(__)m

 

この話は

子供たちがよく遊んでいた団地の中の小さな山が

ある日突然壊されて

駐車場になってしまったことから うまれました。

bottom of page